誰かに触れれば、ふつうは距離が縮まったように感じます。けれどORIGINAL LOVEの「接吻」では、相手を強く求め、抱きしめ、口づけを重ねるほど、なぜか孤独の輪郭が濃くなっていきます。
愛しているのに満たされないのではなく、愛しているからこそ、相手を完全には自分のものにできないことに気づいてしまう。私は、この少し苦い矛盾こそが「接吻」の中心にあるように感じます。甘い恋の歌として聴けるのに、聴き終えたあとに残るのは幸福だけではありません。
「接吻」は、触れ合うほど孤独が見えてくる歌
「接吻 kiss」は1993年11月10日に発売されたORIGINAL LOVEのシングルで、作詞・作曲は田島貴男さん。日本テレビ系ドラマ『大人のキス』の主題歌として生まれた楽曲です。発売日とシングル情報は、Original Love公式サイトの「接吻 kiss」ディスコグラフィーで確認できます。
田島さんはReal Soundのインタビューで、この曲はドラマとのタイアップを前提に依頼され、締め切りが迫るなか短期間で書き上げたと振り返っています。ただし、今回確認した範囲では、歌詞をドラマの特定人物や特定の恋愛関係にそのまま対応させる本人の説明は見つけられませんでした。タイアップ作品は背景として知っておきながら、歌の中では何が描かれているのかを分けて考えるほうがよさそうです。
歌詞にいる二人は、遠くから思い合っているわけではありません。視線を交わし、肌に触れ、かなり近い距離にいます。それなのに主人公の内側には、最初から小さな欠落感があり、親密さが深まってもそれが消えていかないのです。
なお、Original Love公式サイトのBIOGRAPHYにも、5thシングル「接吻 kiss」が日本テレビ系土曜グランド劇場『大人のキス』主題歌として記録されています。

「接吻」を聴き直しながら、Original Loveの歩みも一緒にたどりたい方へ。「接吻」を収録した3枚組の『30th Anniversary Special Best Album “Flowers bloom, Birds tweet, Wind blows & Moon shining”』なら、この曲をほかの代表曲と並べて楽しめます。
商品名:Original Love / 30th Anniversary Special Best Album “Flowers bloom, Birds tweet, Wind blows & Moon shining”
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始まりにある「物足りなさ」は、愛が足りないという意味なのか
冒頭の主人公は、その日をどこか満たされないものとして感じています。ところが相手の潤んだような眼差しには喜びを覚え、夕暮れの中で相手を欲する気持ちはむしろ強くなっていきます。冷めた二人というより、惹かれ合う感覚は確かにあるように見えます。
だから私は、この物足りなさを単純に「愛情がない」「関係が終わりかけている」と読む必要はないと思うのです。欲しいものが手に入らないから求めるのではなく、少し手に入ったからこそ、もっと欲しくなることがありますよね。相手が近くにいることで、知らなかった距離まで見えてしまう。そんな満たされなさにも聞こえます。

そこに置かれているのが、枯れ葉を思わせる色の夕暮れです。季節や時間を具体的に断定する材料は限られていますが、少なくとも明るい昼の真ん中ではなく、光が移り変わっていく時間が選ばれています。二人の親密さにも、ずっと同じ形ではいられない気配が重なって見えるのは、私だけではないでしょう。
相手を知りたいのに、触れるほど未来の色が薄くなる
この曲で強く繰り返されるのは、相手をもっと深く知りたいという欲求です。口づけは愛情表現の到着点ではなく、「まだ足りない」と感じている人がさらに相手へ近づこうとする行為として置かれています。触れれば分かる、抱きしめれば一つになれる、そんな期待がどこかにあるのでしょう。
ところが、その直後に現れるのが「色の無い夢」です。今この瞬間には、眼差しや夕暮れ、肌の温度といった感覚が濃くあるのに、夢だけには色がない。この対照がとても印象に残ります。
ここでいう夢が、眠って見る夢なのか、二人の未来へのイメージなのかは歌詞だけでは決められません。ただ、どちらにしても明るく満たされた像ではないのでしょう。現在の触れ合いが鮮やかであるほど、その先に確かな景色を描けないことが目立ってしまう。私はそこに、この恋の寂しさを感じます。
冷たい肌と移ろう視線が、二人の距離を隠さなくなる
歌が進むと、主人公は相手の視線の揺れや、触れた肌の冷たさに敏感になり、苛立ちまで覚えています。距離は近いのに、相手の心まで同じ場所にあるとは限らない。むしろ近づいたからこそ、小さな温度差を無視できなくなったようにも見えます。
そして、強く惹かれ合う時間のあとに主人公が知るのは、二人が完全に一つになることではありません。歌詞はそこで「永遠に独り」という感覚へ踏み込みます。私はこの言葉を、すぐに「別れが決まっている」という意味には取りたくありません。
人はどれほど誰かを愛しても、その人の心をすべて知ることはできません。抱きしめた身体は近くても、相手の記憶や不安、未来まで同じものにはならない。その当たり前だけれど寂しい事実に、主人公はもっとも親密な瞬間に気づいてしまったのではないでしょうか。

孤独を知ったあと、接吻は「起きていること」から「選ぶこと」へ変わる
この曲には、もう一つ見逃したくない変化があります。前半では、二人の口づけは目の前で起きている出来事として描かれています。ところが孤独を意識したあとの後半では、主人公の側から相手へ、もう一度触れ合おうとする呼びかけへ変わっていくのです。
ここが私はとても好きです。相手と完全には一つになれないと知ったからといって、主人公は距離を取るわけではありません。むしろ、分かり合えない部分が残ることを知ったあとでも、それでも今は近くにいたいと選び直しているように聞こえます。
恋愛の歌では、触れ合うことで不安が解消され、二人の気持ちが確かになるという流れもありますよね。「接吻」はそこへ簡単には向かいません。口づけを重ねても、心の奥にある淡い夢は鮮やかにならず、孤独もきれいには消えない。それでも接吻をやめないところに、この曲の大人びた愛情があるのではないでしょうか。
相手を求めることが、孤独をなくす方法ではなく、孤独を抱えたまま誰かといるための選択になる。そう考えると、タイトルの「接吻」は幸福の証明というより、二人の間に残る距離へ何度でも橋を架けようとする行為に見えてきます。

なぜタイトルは「恋」ではなく「接吻」なのか
この曲では、気持ちを説明する言葉より、相手に触れようとする行為のほうが前へ出ています。だからタイトルが「恋」や「愛」ではなく「接吻」であることにも、私は納得させられます。
接吻は、二人の距離を限りなくゼロに近づけることはできます。でも、相手そのものになることはできません。近づくことと一つになることは違う。その境界をいちばん強く感じさせる行為だからこそ、この曲では口づけが何度も必要になるのかもしれません。
もし一度の接吻ですべてが満たされるなら、繰り返し求める必要はないはずです。それでも主人公は、もっと相手を知ろうとする。私はその姿に、恋の幸福よりも、届ききらないものへ手を伸ばし続ける切実さを感じます。
「接吻」は不倫の歌なのか
この曲については、孤独を感じさせる部分から「不倫の歌なのでは」と考える人もいるようです。ただ、歌詞の中には、主人公や相手に配偶者がいること、二人が婚外関係にあることを示す明確な情報はありません。
主題歌となった『大人のキス』は離婚を経験した男女の関係を描くドラマで、田島さん自身もドラマのタイアップ曲として制作したことを語っています。けれど、そこから歌詞の二人を特定の設定へ固定するのは少し急ぎすぎでしょう。今回確認した本人インタビューでも、「不倫を描いた歌」という説明は確認できませんでした。
もちろん、聴く人が自分の経験と重ねて、秘密の恋や終わりの見える関係を思い浮かべることはあると思います。ただ、それは聴き手側に開かれた余白です。歌詞そのものから確かに見えてくるのは、近くにいる相手を強く求めながら、その親密さだけでは消えない孤独を抱えていることではないでしょうか。

未来を約束するより、消えてしまう前の「今」を求めている
終盤になると、主人公の気持ちは未来を作ることより、今ある時間を失わないことへ向かっていきます。二人がこの先どうなるのか、関係に名前がつくのか、ずっと一緒にいられるのか。そうした約束は語られません。
だからこそ、接吻には切迫した感じがあります。明日も同じように会えると信じている人の穏やかな口づけではなく、今夜という時間の中でしか確かめられないものを、身体ごと覚えておこうとするように聞こえるのです。
「今を大切にする恋」という点では、DREAMS COME TRUE「やさしいキスをして」の考察にも通じるところがあります。ただ、「やさしいキスをして」が相手のそばにいることへ気持ちを向けるのに対し、「接吻」では触れ合うことそのものが、消えない距離を確かめる行為にもなっています。同じキスでも、残る温度はずいぶん違いますね。

「接吻」が残すのは、愛しても消えない孤独
この曲の二人がこのあと別れるのか、それとも関係を続けるのかは描かれていません。けれど、私はその答えがないことを物足りなく感じません。むしろ未来を説明しないからこそ、この夜に二人が触れ合う切実さが残ります。
「接吻」は、愛が足りないから孤独になる歌ではなく、誰かを深く求めたときに初めて見えてしまう孤独を描いた歌なのではないでしょうか。どれほど近づいても、相手のすべてを知ることはできない。それでも近づきたいと願い、口づけを重ねる。その矛盾があるから、この曲の甘さには今も少し苦い余韻が混じって聞こえるのだと私は感じます。

次にこの曲を聴くときは、接吻そのものより、その直後に主人公の心へ何が残るのかを追ってみてください。色濃い夜の中で、なぜ未来だけが淡く見えるのか。その理由を考えながら聴くと、あの甘いメロディーが少し違って響いてくるかもしれませんね。
もう一度、「接吻」を聴いてみる
ここまで物語をたどったあとで、もう一度この曲を聴いてみると、最初に聴いたときとは違う言葉や感情が見えてくるかもしれません。

